ネットワークスペシャリスト 令和3年度 春季試験 午後Ⅰ 問3を解説していきます。
出題テーマ:優先制御
出題テーマは優先制御です。
基本的にフレーム・パケットは到着した順番に処理されていきます。
この状態ですと、誰かがたくさんフレームやパケットをたくさん送れば、他の人のフレームやパケットの処理がされるのに順番待ちが発生してしまいます。
通常のWebページを閲覧する場合はちょっとページ開くのに時間がかかっているなぐらいの影響ですが、リアルタイム性を重視するような音声やテレビ会議などでは、音声や映像が遅れてたり、途切れ途切れになるなど使い物にならない状態となってしまいます。
なので、リアルタイム性を重視するような通信に印をつけてあげて、優先的に処理されるようにしてあげることを優先制御と言います。
ライブ配信で同時接続数の少ない配信の場合は、到着順にコメントを拾ってくれますが、同時接続数の多い配信の場合はスパチャのように優先の印が付けられたコメントから処理していくイメージです。
優先制御以外にもVoIPに関する内容やPoEに関連する問題も出題されていました。
半分程度は知識が必要な問題でしたが、残り半分は知識がなくても解答できる問題だったかと思います。
問題文を読み込んで、知識がなくても解答できる問題を確実に取得すべき問題だったかと思います。
設問1
この問題は知識が必要となる問題です。
【a】から考えていきます。
CS-ACELPのビットレートは『8kビット/秒』です。
【b】について考えていきます。
音声をIPパケット化した際にはUDPが用いられます。
TCPは3wayハンドシェイクを行いコネクションを確立したり、通信が届かない場合に通信の再送を要求したりする分、確実に相手にパケットを届けるという面ではいいのですが、コネクションを確立したりする分通信が遅くなってしまうので、リアルタイム性を重視するような音声通話ではあまり用いられません。
一方で、UDPはコネクションを確立せず、届かなかったらそれで終わりではありますが、TCPのようなコネクション確立の処理がなくリアルタイム性が高いため、音声やビデオ会議などに用いられます。
ここではフレームのヘッダ、IPヘッダのようにヘッダ名を問われていますので、『UDPヘッダ』と解答することができます。
【c】について考えていきます。
ネットワーク機器に大量の通信が到着した場合、ネットワーク機器ではその通信の処理に時間がかかり遅延が発生したり、到着した通信を『ドロップ』、『破棄』してしまいます。
遅延やドロップが発生することは実案件的にも起こり得る状況です。
インタフェースのカウンタ値を確認するなどするして、原因となっている箇所を特定していく必要があります。
【d】について考えていきます。
IPヘッダ内の『ToS(Type Of Service)』フィールドに印(ビット)をたててDCSP値を表します。
よって解答としては、『ToS』となります。
今回の午後Ⅰ問題では、問2でOSPF、問3はVoIP、優先制御などの幅広い知識が問われる内容でした。
どちらも知識が問われる分、どちらを選択すべきか悩んだ方もいらっしゃるかと思います。
どちらも最初に5問程度の穴埋めをさせる問題が出題されていますので、このような場合は穴埋めを多く解答できる方を選択すると残りの問題でも点数が高く取れることが多いかと思います。
設問2 (1)
『拠点間の内線通話は、IP-GWを介して広域イーサ網経由で行っている。』と記載があります。
PBXは電話交換機のことで、公衆電話網とPBXが接続されています。
また、PBXとIP-GWが接続されています。
図1に『IP-GW:音声信号とIPパケットの変換装置』と記載があります。
例えば、営業所から本社に対して内線をかけたときに、営業所のIP-GWで音声信号をIPパケットに変換して、本社のIP-GWでIPパケットを音声信号に変換しています。
というように、IP-GWによって音声信号をIPパケットに変換して拠点間の内線通話を行っているということがわかります。
よって、解答例としては、『拠点間の内線通話』と解答することができます。
設問2 (2)
ジッタとは通信のゆらぎのことです。
音声信号を音声パケットに変換しますが、途中経路の通信状況次第では、パケットの到着タイミングが一定でなっかたり、到着の順番がバラバラになってしまうことがあります。
そこで用いるのがバッファです。
例えば、IP-GWではIPパケットが到着してから1秒間(バッファ)待って、その間に到着したパケットを整理して、タイミングを一定にしたり順番をそろえたりし、その後IPパケットを音声信号に変換します。
このようにすることで、聞こえやすい音声が相手に伝わるというメリットはあるのですが、デメリットとしてはバッファの1秒間は音声が遅れて聞こえることとなります。
実際のバッファ時間は何ミリ秒というごく僅かな時間ですので、体感として感じることのないレベルかとは思いますが、実際には少し遅れて聞こえています。
よって解答例としては、『バッファの分音声信号への変換が遅れるため(20文字)』と解答することができます。
設問3 (1)
図1では本社と営業所に公衆電話網が接続されていました。
一方で、図2を確認しますと、営業所には広域イーサ網のみが接続されている状態ですので、営業所の電話の通信は本社およびインターネット経由で公衆電話網に接続するという流れとなっています。
図1の注記1に『本社のPBXには80回線の外線が収容され、各営業所のPBXには、それぞれ10回線の外線が収容されている。』と記載があります。
営業所は5拠点ありますので、『80回線(本社)+10回線×5拠点(営業所)=130回線』を使用する必要があるということがわかります。
音声をIPパケット化して必要となるスループットとしては、『1回線当たり34.4kビット/秒の帯域が必要となる。』であると記載があります。
なので、『34.4×130=4472』であると計算することができますので、解答は『4472』となります。
設問3 (2)
PoE:Power Of EthernetはLANケーブルでデータの送受信に加えて給電を行うことを指します。
PoE対応のスイッチは、ポート・インタフェースに接続が行われた際に接続された機器がPoEに対応しているかどうか検知する機能が備わっています。
検知した結果、接続された機器がPoEに対応していなければ給電を行いません。
よって解答例としては、『接続した機器に対して給電を行わない。(18文字)』と解答することができます。
設問4 (1)
タグVLANを使用する場合、VLAN IDなどを表すために16bitのヘッダが付与されます。
このヘッダの中にCoS値が含まれており、こちらを優先制御のために用います。
タグなしVLANの場合はヘッダは付与されず、ヘッダが付与されるのはタグVLANのみですので、CoS値による優先制御を行う場合はタグVLANである必要があります。
よって解答例としては、『CoS値はタグVLANに付与されるヘッダ内に含まれるから(28文字)』と解答することができます。
タグなしVLAN、タグVLANについてはこちらの記事もご紹介しています。
設問4 (2)
もともとは『fにはVLAN100、gにはVLAN150』と、L3SW0とL2SW01・L2SW02が接続されているポートにはそれぞれ1つずつのVLANが割り当てられていました。
変更後は『L2SW01に接続するITELには、VLAN100とVLAN105を、L2SW02に接続するITELには、VLAN150とVLAN155を』とあります。
L2SW01とL2SW02でVLAN105とVLAN155を追加で設定したのであれば、L3SW0でもこれらの2つVLANを追加してあげる必要があります。
よって解答としては『2』となります。
設問4 (3)
そもそもキューとは待ち行列のことを指します。
L2SWにフレームが多く到着した場合などに、フレームをキュー(バッファと呼ばれることもあります。)に一時的に待避させます。
1つフレームを転送処理したら、次はキューに待避しているフレームを処理していきます。
とこのように、キューは処理待ちのフレームを一時的に待避させておくスペースとなります。
『最優先の設定によって、キュー1のフレーム出力が優先され、キュー1にフレームがなくなるまでキュー2からフレームは出力されない。』とあります。
キュー1のフレームが空になると、キュー2のフレーム出力が行われます。
設問で問われている『キュー1に音声フレームが残っていなくても、キュー1に入った音声フレームの出力が待たされることがある。』場合ですが、キュー2のフレーム出力中にキュー1のフレームを受信した場合は、キュー2のフレーム出力が行われてからキュー1のフレーム出力が行われます。
さすがに転送途中のフレームを止めてまでキュー1の処理を優先するということは行われません。
よって解答例としては、『キュー2のフレームを出力中の場合(16文字)』と解答することができます。
設定4 (4)
【ア】から考えていきます。
『【ア】から受信したフレームにはCoS値がマーキングされているので』とあります。
CoS値は(レイヤ2マーキングによる優先制御)の欄に記載があるようにL2SWで付与されるものとなります。
なので、L2SWに接続されているインタフェースを選択してあげればよいと考えることができます。
L2SWに接続されているインタフェースは本社のL3SW0では『f、g』、営業所のL3SW1では『j』が該当します。
よって解答としては『f、g、j』と解答することができます。
【イ】について考えていきます。
『【イ】から受信したパケットは、音声パケット、eLNサーバのパケット(以下、eLNパケットという)、その他のデータパケット(以下、Dパケットという)の3種類に分類し、対応するDSCP値をマーキングする。』とあります。
パケットを受信するのは全てのインタフェースで受信をしますが、すでに【ア】でもDCSP値を付与していますので、DCSP値が付与されていないパケットを受信するインタフェースを選択すればよいと考えることができます。
ですので、まずは【ア】で解答した『f、g、j』は除外されると考えることができます。
そして、『【ア】から受信したフレームにはCoS値がマーキングされているので、CoS値に対応したDSCP(Diffserv Code Point)値を、IPヘッダの【d:ToS】フィールドをDSCPとして再定義した6ビットにマーキングする。』とあります。
【ア】でも解答したように、営業所にもL3SW1があり、同じようにCoS値から対応するToS値に付与を行っています。
そのパケットはi→hときてL3SW0で受信されますが、ToS値はすでに付与されていますのでL3SW0ではDCSP値を付与するということは行いませんので、『i、h』も除外されます。
よって解答としては残った『a、b、c、d、e』となります。
設問4 (5)
『DCSP値を基に、音声パケットをキュー1、eLNパケットをキュー2、Dパケットをキュー3に入れる。』とあります。
キューを分けるということは優先順位を行うことと考えることができます。
優先制御を行う理由としては、他の通信の影響を受けないようにするためです。
音声パケットは今回の問題のようにeLNパケットが大量に発生しても邪魔されたくないですし、同じようにeLNパケットもDパケットが大量に発生した場合にに邪魔されたくないわけです。
なので、解答例としては、『Dパケットが大量に発生してもeLNパケットに影響が出ないようにするため(35文字)』と解答することができます。
公式解答例との比較
私の解答と公式解答を比較してみました。
満点ではないにせよ、少なくとも7割~8割程度は取れているかと思いますので合格ラインには達していると思います。
予想配点はあくまで予想ですので参考程度でお願いします。
出題テーマは優先制御で、半分程度は知識がないと解答することが難しい問題だったと思います。
優先制御はVoIPやテレビ会議を利用する環境下では必須の設定となります。
ちなみにですが、テレビ会議はZoomやTeamsなどとは異なり、専用の端末を用いて行います。
ZoomやTeamsは厳密な言葉の定義はないですが、Web会議などのWeb◯◯とつく場合はこれらを指していると思います。
ZoomやTeamsの場合は優先制御ではなく、プロトコルが固定でなかったりするので、インターネットブレークアウトによって通信を安定させる方式をとることが多いと思います。
ネットワークスペシャリストの試験的には出題されないかと思いますが、実案件的にはいつか役に立つかもしれません。
総じて、難易度としてはやや難~難しかったと思います。
配点 |
|||
設問1 | a:8 b:UDP c:ドロップ d:ToS |
a:8 b:UDP c:廃棄 又は ドロップ 又は 損失 d:ToS |
各2点 |
設問2 (1) | 拠点間の内線通話 | 拠点間の内線通話 | 3点 |
設問2 (2) | バッファの分音声信号への変換が遅れるため(20文字) | パケットの音声化遅延が大きくなるから | 5点 |
設問3 (1) | 4472 | 4,472 | 2点 |
設問3 (2) | 接続した機器に対して給電を行わない。(18文字) | L2SWからの給電は行われない。 | 5点 |
設問4 (1) | CoS値はタグVLANに付与されるヘッダ内に含まれるから(28文字) | フレーム中のタグ情報内の優先ビットを使用するから | 6点 |
設問4 (2) | 2 | 2 | 2点 |
設問4 (3) | キュー2のフレームが出力中の場合(16文字) | データフレームが出力中の場合 | 5点 |
設問4 (4) | ア:f、g、h イ:a、b、c、d、e |
ア:f、g、h イ:a、b、c、d、e |
各3点 |
設問4 (5) | Dパケットが大量に発生してもeLNパケットに影響がでないようにするため(35文字) | DパケットによるeLNパケット転送への影響を少なくするため | 7点 |
引用元
問題および解答例に関しては、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)より引用しています。